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Web制作会社のルーツと技術力

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先日たまプラーザのBarで飲んでいたところ、Web制作関係のお仕事をしている方にお会いしました。
そこで、Web制作会社の技術力の話しになりました。

僕もその方ももともとエンジニアをしていて、そこからWeb制作に移ったという経歴が一致していました。
そしてお互いに大変共感したのが、Web制作会社のエンジニアリングはゆる過ぎる、ということでした。

Web制作会社のエンジニアリングはゆるい

つまり、エンジニアをしていた経験のある人から見ると、Web制作の仕事は間違いなくエンジニアリングの仕事であるにも関わらず、仕様書やドキュメント、プログラム、テスト、リリースなどのマナーや品質が低く、作ってるこっちがおっかない、ということです。
それも、ちょっとやそっとの感じではなく、本当にこんなんで納品していいんですか?まじですか?と思ってしまうレベルです。
もちろん、自分も実際に仕事をして成果物の品質に責任を負っているわけで自分の問題でもあるのですが、会社の社長や上司、社員を含めた会社全体のモラルが低く、一人でよがってもどうしようもなかったりします。

ただ、すべてのWeb制作会社がそうであるわけではなく、エンジニアリングに対する意識の度合いは、その制作会社のルーツで大分変わってきます。簡単に言えば、その会社の社長が何系の仕事についていたか、ということです。
Web制作会社は今でこそたくさんありますが、それでもまだ歴史は浅く、成り立ちのパターンは大分限られていると思います。

Web制作会社のルーツ

1つは、出版・広告業界からの参入。Webをパブリッシングの1チャネルとみなし、本・雑誌、新聞、ラジオ、テレビに続くマーケティング媒体と捉えて仕事をしているケースです。
とくに広告業界をバックボーンとした制作会社の数は非常に多く、電通や博報堂などの広告代理店から依頼を受けて仕事をしている会社がかなりあります。1990年代半ばに起業しているWeb制作会社は、このパターンが多いような気がします。
こうした会社で働く人たちは、出版でデザインをしていた人や、CMやTV番組を作ってきたプランナーやプロデューサーと、その周りにいるメディア関係の出身者が多いようです。
こうした会社はマーケティングに関してはプロフェッショナルで、デザインが果たす役目にも非常に敏感で、商品のランディングサイトや、動きのあるビジュアル重視のサイトが得意分野だと思います。
その反面、いわゆるエンジニアやSIer出身の人材は少なく、エンジニアリングに関してはあまり意識が高くない傾向があります。とにかくいいものを作るのが仕事、極端に言ってしまえば、動いていれば問題ない。それで結果が出ているならばそれでいい、という考え方です。

これに対し、SEやSIerをやっていた人たちが、Webも1つのシステムと捉え、時代のニーズに合わせてWebシステムに特化した制作会社を立ち上げる、というパターンがあります。
この場合は、いわゆる大手IT企業でSEやSIをしていた中で、少しづつWeb関連の仕事が増えてきて、だんだんWeb関連の仕事を専門にする部署が大きくなり、スピンオフや独立企業するケースが多いようです。
数としてはあまり多くなく、Webに特化するのではなく、いわゆる普通のシステム開発も並行してやっている会社も結構あるように思います。
こうした会社は、Webも1つのコンピュータシステムと捉えていますから、仕事の仕方はこれまでのシステムエンジニアリングと基本的に同じです。要求定義書や各種仕様書などの地道なドキュメント作成が仕事の大きな部分を占めており、開発とほぼ同程度の工数をテストにかけ、綿密なリリース手順書を準備し、何かトラブルがあったときのためのリリースバック手順まで確実に確立してから実際の作業に着手します。
こうした会社は出版・広告出身の制作会社と比べるとデザインやマーケティングに弱いですが、ECサイトや、CMS・SaaSパッケージを利用するようなインテグレーションは得意分野です。
ただ、やはりSEやSIをしていた経験があるため、基本的に仕様書通りに正確に動くシステムを作り上げるのが仕事であり、Webサイトをリリースした後の成果にはあまり関心がなかったり、そもそもそこを成果のターゲットにしていない場合があるように思います。

3つ目は、はじめからネットビジネスをするために、自社サービスを自分たちで作り上げる、いわゆるインターネット企業です。一般にはこうした会社を制作会社とは呼びませんが、外注を取らないというだけで、中身はWeb制作会社の一種とみていいと思います。
こうした会社は、もともと先端技術に敏感な優秀なエンジニアが社長となって会社を引っ張っていくか、あるいは経営コンサルタントやシンクタンクなどの経験をバックボーンとしてネットビジネスに参入しようとする場合の2通りがあるように思います。
いずれの場合も、やはり自社サービスを作り上げるだけの技術力がポイントになるわけで、エンジニアの中でも先端のWebエンジニアリングに興味を持ち、高い技術力を持った若く優秀なエンジニアを集めるという特徴があると思います。
これらの会社は先の2例とは異なり、既存業界の企業文化を引きずることがなく、新しい業界で新しい文化を独自に築いて行く傾向があります。このため、仕事のやり方や人材の傾向も、会社によってさまざまです。
ただ、今でこそ少し状況が変わりつつありますが、Webサービスを作り上げること、良質なサービスを量産することが大きな目的となり、偏ったかたちで技術志向が進み、エンジニアばかりで会社を構成してしまう傾向があるように思います。
つまり、いわゆるSIerが抱えるプロジェクトマネージングやシステムコンサルティングを行う人材層が欠けているため、ものは作れるけども、長い目で見た時のプロジェクト進行が非常にもろいということです。
この分野はサービスを立ち上げるスピードが大きな鍵を握っているため、このような傾向になってしまうのはある意味仕方ないと思いますが、正確なドキュメントを書かない、綿密な設計を行わないシステム作りは、ノウハウの蓄積が難しく、将来的な会社の成長を考えたときにどこかで頭打ちしてしまい、企業として成熟できずに停滞してしまうことになると思います。

この他にもいろんな成り立ちがあると思いますが、それらの数は非常に少なく、大きく分ければこの3パターンに集約されると思います。
Webが普及してから20年が経とうとしており、Webサイト制作の仕事は多様化し、求められるものも高くなってきていると思います。その意味で、どんな成り立ちの制作会社も、今は変革を迫られるターニングポイントにきている気がします。

Web制作会社が抱える課題

出版や広告出身のWeb制作会社の場合は、技術力が明らかに不足しています。プロモーションを目的とした単純なランディングサイトなら今までのやり方で十分だと思いますし、これらのニーズはこれからも必ずあると思いますが、Web技術はかなり複雑になってきていて、新しいことや面白いことをしようとすると、さまざまなシステムやサービスと連携する必要があり、そこには高い技術力が求められます。これまで、技術者の育成をサボってきたような会社は、どこかで必ず行き詰まってしまうと思います。5年後や10年後には、かなりの数のこうした制作会社が淘汰される気がします。

SEやSIを背景としたWeb制作会社は、Webならではの新しい考え方をうまく吸収できるかどうかがポイントだと思います。これからは質の高いエンジニアリング力が重要になってくると思うので、そこは問題ないと思うのですが、Webは動けばいいものではなく、その後の継続的な運用と成果が求められるものです。技術力に加えて、そうしたコンサルティングができるようになれば、うまくやっていける可能性があると思います。

自社サービスを提供するインターネット企業の場合は、今後、プロジェクト管理やSI、システムコンサルなど、純粋な技術力以外の力をどのように養っていくかがポイントになると思います。既に優秀なエンジニアをたくさん抱えているので、SIerなどの人材をうまく取り込んでプロジェクト体制を整備していけば、今後複雑化するWebエンジニアリングにも対応できると思います。

ルーツを超えてスキルを集約していく

どの会社も、今足りない人材をうまく補えるかどうかがポイントになると思います。

時間が経つとともに、一から10まですべてを行うWeb制作会社は減ってきていて、コンサルティング、マーケティング、プロモーション、デザイン、設計、開発、運用など、それぞれの分野に特化する傾向が強まっています。
逆に言えば、Webを取り巻く技術が発達し、それぞれの仕事が難しく、かつより品質の高いものを求められるようになり、一つの会社ですべてを行うのはもはや難しいのだと思います。
今後は、こうしたそれぞれの仕事に特化した企業同士がうまく協力できることが大切だと思います。そのためには、これまでの企業文化に縛られることなく、異なる業界間で柔軟にスキル交流を行っていく必要があるのかもしれません。

SEやSIを中心としたIT業界、Webサイト制作を中心としたWeb業界、マーケティングやプロモーションを中心としたデザイン・広告業界はそれぞれかなり文化が違っていて、同じWeb制作を行っているにも関わらず、業種間の人材移動もあまり行われていませんが、これからのWeb制作には、これらすべての業界のノウハウが必要になってくると思います。
そうした視点を持ち、実際に変化できる企業が、今後のWeb制作をリードしていけるのではないかと思います。

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